外国人を採用した時の「雇用契約書」作成時のポイントと注意点について

外国人の採用する場合にも日本の労働基準法の適用となるので、「雇用契約書」または「労働条件通知書」の作成が必要になります。
そして就労ビザの審査では、雇用契約書の内容も審査対象となるため、就労ビザの申請「前」に雇用契約の内容を決める必要があります。
上場企業や直近年度の法定調書合計表に記載されている「源泉徴収税額が1,000万円以上」の企業(カテゴリー2企業)の場合には、雇用契約書の提出は不要ですが、それ以外の一般的な中小企業や個人事業主の場合には、雇用契約書の提出が必要となります。
そこで今回は、外国人を採用する際の雇用契約書の作成ポイントと注意点についてご説明していきたいと思います。
目次
監修者

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行政書士法人フォワード
塩野 豪 GO SHIONO行政書士 Immigration Lawyer
フィリピン・カナダに合計5カ月居住し、海外での生活の大変さを知る。
その後、2016年に行政書士として独立して、ビザ申請代行サービス「ビザプロ」を開始する。
その後、累計400社・45か国以上の方の在留資格(ビザ)サポートを行う。
その他にも、日本法人の設立などのサポートを行い、外資系の日本進出コンサルティングも行っている。
人材紹介会社・管理団体・専門学校等とも顧問契約を結び、入管業務に特化したコンサルティングサポートを展開し、セミナー講師も積極的に行っている。
外国人雇用における「雇用契約書」の注意点とは?
外国人を採用し、就労ビザを申請する際には「雇用契約書」の提出が必要になります。
雇用契約書には、日本人を採用する場合と同様に「勤務地」「勤務時間」「休憩時間」「給与金額」などの記載が必要です。(詳しくは後述)
外国人が日本国内で働く場合には、日本の労働基準法が日本人と同じく適用となりますので、基本的には日本人と同様に進めていくのですが、外国人ならではの注意事項もあります。
それは「雇用開始日」をいつからにするか?です。
雇用契約書は、就労ビザ申請「前」に雇用契約を締結するので、就労ビザがいつ許可されるのかによって、雇用開始日が変わるため、どのように記載したらいいのか迷うと思います。
さらに雇用契約書を締結して、仮に就労ビザが許可されなかった場合でも、雇用契約書の内容は有効のままになってしまうので、就労ビザが不許可だった場合の対策も必要になります。
雇用開始日は、未来の日付けにする
雇用開始ができるのは、就労ビザの取得「後」となるので、雇用開始日は未来の日付けである必要があります。
申請の種類にもよりますが、審査には2~3ヶ月はかかるので、それ以降の任意の日付けを設定するか、「就労可能な在留資格が許可された後」といった記載をされる企業もあります。
仮に設定した日付けになっても審査中であることも考えられるので、そういった場合に備えて停止条件もつけておくことをおすすめします。
雇用契約の締結時には「停止条件」をつけるべき
「停止条件」とは、その条件が満たさることを条件に雇用契約書の内容が有効になるというものです。
そのため、就労ビザの取得を条件とすれば、就労ビザの取得ができない場合には、雇用契約書の内容は効力を発揮しないということにできます。
具体的な停止条件の記載例としては、「停止条件:就労できる在留資格の取得ができなかった場合は、発行しないものとする」などです。
この表記はあくまで一例なので、記載内容は変更していただいて大丈夫ですが、停止条件があれば、雇用開始日のトラブルや万が一不許可になってしまった際のトラブルも防止することができますので、何かしらの文言を記載することをおすすめいたします。
雇用契約書の内容を外国人が理解していることも大切
雇用契約書の内容を外国人が理解していることも必要になります。
そのため、日本語が苦手な場合は、外国人が理解できる言語での作成をしてあげることが望ましいです。
入管での審査では、外国人が理解できる言語で雇用契約書を作成しているかまでは審査対象とはしていませんが、審査の段階で外国人本人に直接電話して、仕事内容を確認することがあります。
入管から電話があるケースとしては、仕事内容が就労ビザの資格該当性があるか微妙な場合に、外国人本人に確認するケースが増えています。
その際に、外国人が仕事内容を把握していなかったり、雇用契約書や理由書に記載の仕事内容と違う場合には、疑義があるとして不許可になってしまう可能性が高くなりますので、雇用契約書の内容はしっかり理解してもらうようにしてください。
労働条件通知書でも問題はない?
外国人採用の場合にも日本の労働基準法が適用されるとお伝えしましたが、そもそも労働基準法と同法施行規則によって「労働条件通知書」の作成が義務づけられています。(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条4項)
しかし多くの場合は、「雇用契約書兼労働条件通知書」と兼用したり、労働条件通知書に記載すべき事項が記載されていれば「雇用契約書」のみで労働条件通知書の役割を兼ねることも可能なので、雇用契約書のみを締結する場合が多いです。
そして、入管への雇用条件を示す書類として「労働条件通知書」「雇用契約書」のどちらでも問題はありませんが、法的に有効の書類でないといけないので、雇用契約書の場合には契約書なので、会社と外国人の両方が内容を確認して、双方の捺印またはサインが必要になります。
この場合、捺印・サインについては電子契約でも問題はありません。
一方、労働条件通知書の場合は、外国人に対して雇用条件を通知するものになるので、特に捺印やサインがなくても問題はありません。
しかし、外国人のビザ申請においては、会社として労働条件通知書に記載のある内容に相違がないことをアピールするためにも、労働条件通知書に会社の印を押してある方が望ましいです。
※労働条件通知書に会社の印がないだけを理由に就労ビザが不許可ということはないので、ご安心ください。
雇用契約書に記載しないといけない項目とは?
入管に提出する労働条件通知書または雇用契約書は、法的に有効になっている必要があります。
そこで、労働条件通知書の内容を雇用契約書に記載して1つの書類にまとめる場合は、作成する際に記載していないといけない絶対的記載事項があるので、内容を確認していきましょう。
この絶対的記載事項の記載がない労働条件通知書または雇用契約書は法的に有効とみなされないので、入管から法的に有効な契約書の再提出を求められる場合があります。
必ず記載しないといけない項目(絶対的記載事項)
- 契約期間
- 就業場所
- 従事する業務内容
- 給与金額(計算および支払い方法、締め切り及び支払い時期、昇給についても含む)
- 始業、終業の時刻
- 休憩時間
- 休日、休暇について
- 時間外労働の有無
- 退職に関する事項
また従業員10名以上の会社などで就業規則がある会社で、就業規則で下記事項が定められている場合は、下記事項の記載も必要になります。
就業規則に定めがある場合に必須事項
- 賞与など、臨時に支払われる賃金について(退職金以外)
- 最低賃金額に関する事項
- 退職金の適用となる範囲、計算、支払い方法、支払時期(退職金の記載がある場合)
- 労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 休職に関する事項
給与金額について
給与では、最低賃金以上の賃金になっているか注意してください。
最低賃金以上になっていることに加えて、就労ビザでは、外国人と同ポジションに同スキルの日本人を雇用する場合と比較して同等以上の給与水準であることが求められています。
そのため外国人だから(例えば、日本語が話せないから)という理由だけで給与を低くすることは認められていません。
そのためネット求人を出している会社は、同ポジションのネット求人の給与よりも、採用した外国人の給与が低い場合には注意が必要です。
何か理由があり給与を低くしている場合には、理由書を作成して入管に説明するようにしてください。
転職の外国人(すでに就労ビザを持っている)を採用した場合
転職の外国人(すでに就労ビザをもっている)を採用した場合は、同じ就労ビザで働ける仕事内容だった場合は、入管に就労ビザの申請をせずに、転職後すぐに勤務開始することができます。
※特定技能ビザや高度専門職ビザの場合は、転職した場合には変更申請が必ず必要になります。
転職した外国人を雇用する場合の注意点は下記です。
転職の外国人を採用した際の注意点
- 転職した旨の届出を入管に提出する
- 外国人が働ける仕事内容か確認する
- 外国人の就労ビザの種類を確認する
転職した旨の届出を入管に提出する
外国人も転職は自由にできますが、勤務先が変わった場合には、外国人本人が入管に「届出」をする必要があります。
届出には審査はないので、提出するのみになり、届出の方法は「入管の窓口で行う」「郵送で行う」「オンラインで行う」の3種類あり、オンラインで行う場合は、下記リンクから手続きすることができます。
外国人が働ける仕事内容か確認する
日本の就労ビザでは、働く内容によって取得する就労ビザの種類が異なり、どんな仕事内容でもできるというわけではないので注意が必要です。
一般的な就労ビザは、「技術・人文知識・国際業務」と呼ばれるもので、エンジニアや営業、マーケティング、語学教師、翻訳通訳・海外取引業務など、いわゆるホワイトカラーのお仕事をするための就労ビザになります。
技術・人文知識・国際業務ビザで現場労働や単純労働などの仕事はできませんので注意してください。
また、就労ビザの種類によっては、転職した場合は届出ではなくビザの変更申請を行わなければいけない就労ビザ(特定技能ビザや高度専門職ビザなど)もあるので、外国人が今何の就労ビザなのかを確認するようにしてください。
技術・人文知識・国際業務の仕事内容について、より詳細が知りたい場合はこちら
就労資格証明書の申請で仕事内容が問題ないか確かめる
転職後の外国人の仕事内容が問題ないか確かめる方法として、「就労資格証明書交付申請」というものがあります。
就労資格証明書交付申請とは、入管に転職後の仕事内容も問題はないか確認する申請で、次回の就労ビザ更新時のために先んじてお墨付きをもらう手続きとなります。
就労資格証明書は、転職前には申請できず転職後に申請となるため、採用時にはインターネットなどである程度、仕事内容に問題がないか事前に調べることは必要となってきます。
そして就労資格証明書の申請も審査に2ヶ月前後はかかるため、今持っている就労ビザの期限が4ヶ月ほどであれば、ビザの更新申請が在留期限の3ヶ月前から可能なので、就労資格証明書の申請ではなく、更新申請の準備をはじめるようにしてください。
仮に在留期限が6ヶ月以上ある場合には、就労資格証明書の申請をすることをお勧めします。
なお、特定技能ビザや高度専門職ビザなどの就労ビザは、在留期限が残っていても転職して働くためにはビザ申請(在留資格変更許可申請)が必要になりますので、ご注意ください。
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